ミリオンダラー・ベイビー

MB
監督/制作:クリント・イーストウッド
脚本:ポール・ヘイジズ
音楽:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッドヒラリー・スワンクモーガン・フリーマン、ジェイ・バラチェル、マイク・コルター、ルシア・レイジェッカー、ブライアン・F・オバーン、マーゴ・マーティンデール
2004年アメリカ<公式サイト

打ちのめされた。
作中、クリント・イーストウウッド演じるフランキーもヒラリー・スワンク演じるマギーも、一方的に家族を愛しているが、その関係は破綻している。そのかわりルーツであるアイルランドとの絆にすがりついている。いつもイエイツのゲール語で書かれた詩集を読み、マギーに「モ・クシュラ」と書かれたガウンを着せる。
まるで材木から一人の人間を削りだしていくようなクリント・イーストウッドの演技がすばらしかった。90年代に入って、しんみりした映画も撮るようになったイーストウッド監督だけれども、自分が主演するときは感情の高ぶる場面で顔のアップは避けていたという。観客は私が泣いている顔を見たいのだと思う、けれども期待されるままの映像を撮りたくはない。そんな事を十数年前、インタビューに答えて言っていたと記憶している。しかし今作ではそれまでの演技のパターンを捨てて、その豊かな目や雰囲気での表現力を余すところなくフィルムに焼き付けている。
名優モーガン・フリーマンのくたびれた元ボクサーの雑用係という演技がまた見事。切り取られたキャラクターではなく、人生を重ねてきた経験豊かな老人の姿がそこにはある。
ヒラリー・スワンクの演技もよかった。

衝撃のラストだけれども、その選択自体には賛同できない。
しかし、その苦しみを味わっていない人間が、軽々しく非難できる性質の物でないこともまた知っている。
たった一つの絆。神に背く行為。二本の注射器。レモンパイ。
フランキーもまた自ら命を絶つことを暗示し、映画は終わる。
95点。