APPLESEED

今を去ること20年前の事である。
図書館のカウンターに座り、穏やかな午後の一時を過ごしていた私の元へ、
I先輩が あわただしくやってきて(この先輩はいつも騒がしかったが)、
一冊の本を手にその魅力を語り始めた。
アップルシード。それがその本の名前だった。

あらすじ
世界大戦後、廃墟で戦い続ける小野田少尉のようなデュナン・ナッツ。
そんな彼女を襲う、謎のサイボーグ+軽戦車×2。
数体を倒すもついには取り囲まれ、絶体絶命のピンチに。
しかしその時、プライベートライアンのラストシーン宜しく空から騎兵隊攻撃輸送ヘリが
あらわれ、次々と敵を倒す。これ幸いと逃亡をはかるデュナンだが、あわれ背中を向けて
逃げ出したもんだから、おもいっきりスタン弾をくらってとっつかまる。
オリュンポスの病院で目を覚ましたデュナン。その場にいたヒトミを人質に、
脱出を計るが、その時背後から聞き覚えのある声が・・・・
デュナンのかつての恋人ブリアレオス。
アフリカの戦場で死んだと思われていた彼だが、オリュンポスに助けられ、
体の大部分をサイボーグ化して生き延びていたのだ。
ブリアレオスの同僚として、E.SWATに入隊するデュナン。
さっそくバイオロイド生育施設へのテロが発生し、立法機関の老人達は
人間はやはり危険な存在だと主張、バイオロイドを活性化し、
生殖能力を 取り戻すと宣言。行政長官アテナに指示を与える。
指令を受け、バイオロイドの生殖能力を取り戻すキー:APPLESEEDを求めて
海上プラットフォームの研究所に降り立ったデュナン、ブリアレオスらのチーム。
デュナンはそこでバイオロイドの研究をしていたのが自分の母であり、
彼女が何者かに研究所を襲撃された際に射殺されたことを、
ファイナルファンタジーの強制体験イベントなみにフル3DCGで知らされる。
APPLESEEDの鍵は、彼女がいつも持っているペンダントのなかにあったのだ。
そこへ襲いかかるオリュンポス正規軍。
バイオロイドによる人間の支配を良しとしない将軍はクーデターを企て、
バイオロイドの生殖能力を蘇らせるキーを破壊しに来たのであった。
そこで将軍の副官が突然切れる。
「俺は昔、お前の父親にクビにされた。お前に復讐してやる〜」 と言って
銃を突きつけるが振り払われ、あっけなく返り討ちに。
取り囲む兵士達にあわや射殺される、という瞬間。ブリアレオスが身を盾にして
デュナンをかばい、はるか下の海面めがけて決死のダイブ。
なんとか海岸にたどりついた二人だが、ブリアレオスは虫の息。
「お前を巻き込みたくなかった」「もう喋らないで」と昼メロの世界。
ブリアレオスの顔をのぞき込むデュナン。
ブリアレオスの顔に映る、目にいっぱいの涙をたたえたデュナン。
しかしそこの姿が映っているのは、目ではなくて鼻だ。(ぉ
がっくりと力つきたブリアレオスだったが、朝日の中からさっそうと
ギュゲスを駆るヨシツネがあらわれ、手にしたちっちゃい工具箱で
ブリアレオスの修理にかかる。
ヨシツネの乗ってきたギュゲスでアテナの元へ急ぐデュナン。
アテナにペンダントを引き渡す。しかしこの話には裏があった。
動き出す多脚砲台の前に、人類は生き残ることができるか!?

観賞後の雑感
あの素晴らしい原作から、どこをどうすれば、この主婦が家事をしながら見ても理解できるような、
家族と夕食後に団欒しながら見ても分かるような、暇つぶしに見終えたら30分で内容を忘れられそうな
ハリウッドの大量生産作品のような脚本が書けるのだろう。
演出とレイアウトが悪い。もともと士郎正宗作品自体がレイアウトを考えられた作りになっているので、
場面の繋がりや効果に無頓着なレイアウトが目立ってしまう。
格闘シーンでのスローモーションの使い方も古くさい。
戦術がなってない。なんでLMが横一列に並んで射撃しますか。ギャング映画じゃあるまいし。
そもそも、現実には人型兵器のメリットなんかないってのはとっくの昔に結論が出ていて、
にもかかわらず人型パワードスーツであるところのLMを出すために、
原作では嘘と真実を混ぜた、かなり緻密な運用上の設定がなされていた。
遮蔽物に隠れて耳先のカメラで曲がり角の先を偵察するなんてのはその最たる物で、
いわゆる都市型の豆タンクの理屈を導入することにより、LMの存在に説得力が持たされていた。
今時、分厚い装甲に守られた主力戦車だって走行しながら主砲を撃つというのに、
ぺなぺなの申し訳程度の装甲しかないギュゲスが、敵の前に身をさらすなんてどうかしている。
絵にもはげしく違和感を感じた。モーションキャプチャーのポリゴンという発想そのものにも
異論はあるが(すなわち正確に対象物を再現しても、人間は”印象”というバイアスを通して
それを記憶しているため、必ずしもリアルに感じるわけではない。”人にはどう見えるか”、
を追求した方がリアルに感じられる)、奥行きによるピントの表現は成されているが、
画面の隅々までくっきりはっきりゆがみなく見えている。つまりこれはまぎれもない”絵”だ。
それもCGを直接ディスプレイに表示した代物だ。レンズを通して撮影されたものでは、ない。
ブリアレオスが何か考えているときに、その4つの目がちかちかと瞬くのもいかがなものか。
なんだかな〜。”デュナンには隠された秘密が”って・・・アップルはデュナンがあくまで
一兵士であり、その”ただの一兵士”の目で事件に関わりながら世界の動きを見つめていくというのが
良いところなのだが、物語優先型にしちまって・・・
ブリアレオスも格好悪い。
デュナンは複雑な混血の子で白人ではないし、白くないから人種差別主義者に殺された
デュナン母親が白人のわけがない。それにブリアレオスもリビア系で白人ではなかったよなぁ。
人がどうこうというシナリオの割りに、原作の多様な人種間の問題とか、全部捨て去られている。
私がハートマンという名前だったら、「きさま俺のアップルシードに何する気だ!」と言ったろう。
しかしそれでも・・・大昔のOVAより100倍マシだな。

良かったのは・・・ギュゲスの内装と、動いている多脚砲台を見られたとこくらいか。
数行しか書けないと思ったのにタラタラと不満ばかり書いてしまった。
しかし、”良かったところ”が少なかったのは確か。