『華氏911』

次々と書籍が焚書される時代、燃やされる本の内容をすべて暗記し、語り継ごうとした人々がいた・・・
は、どうでもいいとして
マイケル・ムーア監督
主演:ジョージ・ブッシュ大統領
この映画では9.11からイラク戦争までを範疇に、ブッシュ一族とビン・ラディン一族の関係、
事件数日後には事情聴取すらゆるさずにビン・ラディン一族をサウジアラビアに返している事実、
調査に対する大統領陣営による妨害、そして事件後の混乱、アフガニスタンへの攻撃の遅れ。
後半は貧しい階層の人々が軍に志願している現実と、ブッシュ大統領ら富裕層との対比が
描かれている。


最初に結論を言えば、最高のプロパガンダ映画でした。<誉めてる
まず編集がすばらしい。取材映像の連続であるから自然、単調になりそうなものであるが、
実に生理的に心地よいタイミングでカットを繋ぎ、実に122分もの映画をケツは痛くなるものの、
飽きさせずに見させてくれる。
内容について言えば、さすがに知らないことはほとんど出てこなかったわけだけれども、
そもそも国際政治ネタのニュースをいちいちチェックする人間がマイノリティだろうから、
この辺、私や某師匠を基準に考えてはいけないのだろう。
ドキュメンタリー調だったり、サスペンス調になったり、過去の名画のシーンを拝借したり、
追跡ドラマ調になったりと、演出の手練手管の多彩さにも感心。
映画マニアならば必見の映像作品と言える。


内容について述べるならば、この映画は、現状に対するカウンターウェイトとして存在が必要な作品と思うし、
世界情勢に興味がある人ならば見て置いた方がいいのではないかと思う。
もちろんこの作品内では、実はなんの解決策も示されていないし、実際、論旨展開の中で弱い部分を
実にうま〜くかわしていたりする所もあり、この映画を見て「だからブッシュやめろ」と感情的に
のたまってしまうのは、世論誘導に引っかかりやすい人だろう。でも、そうした勢力も世界には必要だ、
なんて、つい上からの視点で考えてしまうのは、社会の動きに積極的にコミットメントしようとしていない
からなのではあるが、政治やら世界情勢に興味がある人が若いウチに反体制や共産思想に染まるのは
良くある話で、社会人になって現実の社会の恐るべき複雑さや問題の多さを知ってしまうと、
実はみんな結構命がけで社会を運営していて、人間一人で理解できたり考えられたりすることが
いかに些少であるかと言うことを思い知らされたりして、結局の所、多少考えが異なっても
これにベットするのが一番マシとおもえる陣営に肩入れし、考えてることとやってることの乖離に
折り合いを付けていったりするわけであるが、実際、反ブッシュムーブメントが起きて
民主党大統領となった場合、本気でモンロー主義の復活となりそうに思えて恐ろしいのだ。
米国人は、自国で全てがまかなえるので他国に感心がないのが常であるし、
とはいえ帝国主義、というか覇権国家として世界運営を行わない限り、
富裕層の富がこれ以上増えることはないので、世界にばんばん口を出すと言う姿勢自体は
変わらないのかなあとも思ったり、とあまりマジメに書いたら変なレッテルを
張られるのが怖いから、勢い電波投げに出てしまうのは私の軟弱さゆえだろう。


あと蛇足ながら
ジョージ・ブッシュほど間抜け顔の似合う歴代大統領はいなかったろうという点がある。
これに関して、ブッシュ大統領には主演男優賞をあげても良いくらいだと思った。
また、イラク駐留軍の米兵が、戦車でCD掛けていたり、任務に出かけるときに「ロケンロール!」と
声を掛けていたりするのに激しく・・・なんというか・・・こんな国に・・・負けたのかと・・・
おまいらもうちょっと真面目に戦争せいよ。
そりゃノリノリのBGM掛けて興奮してりゃ、誤射もするわいな。
作中、兵士の給料$2,000に対し、現地のハリバートンの運転手のサラリーが$8,000。
いかにも兵士が被搾取階層、運転手が搾取階層のように印象づけられていたが、
運転手のコメントの「危険を感じたことはない」ってえのは被雇用者としての発言で、
真実じゃないだろう。事実、ハリバートン初め米国企業の人間は集中的に狙われていて、
かなりの被害が出ていることは、報道されているし。ただ、彼らは民間人で、選んで危険な仕事を
しているから給料が高い、それだけだ。そして仕事が終われば契約は終わる。兵士はそうではない。
ムーア監督もそれは分かっているはずだが、作品のためにそうは撮っていない。
注意深く見れば仕掛けも見えるし、誘導しているところもわかる。
この監督は、根っから正直な人なんだろうな、きっと。


ああそれから、小泉首相はこの映画を見るべきである。
そして気の利いたコメントのひとつも残すべきだ。
これはそれが出来る映画だ。